平田化学が作った平和鳥

 

平田化学株式会社がつくった「水飲み鳥」

平和鳥は昭和24年に平田棟雄社長が発売している。広島で発案されてのちに東京都文京区駒込千駄木にで生産される。発明のきっかけは、平田氏がガラス管を手で暖めるオモチャを見たことだという。

このエピソードは平田棟雄氏が凡人ではないとうかがえる一文である。「一方を暖めると動くなら、一方を冷やすと動くのではないか?」
というひらめきは、科学者では考えられない発想力と発明である。

平田氏は、当時の小学校しか出ていない菓子職人だった。何事にも、試行錯誤をおしまない人柄でお菓子作りという化学変化の基礎の応用する能力があったと推測できる。

東京の上野のアメ横での商売から、広島へ移り本格的に「平和鳥玩具」の生産をはじめる。 広島で考えてつくったので、「平和鳥」と名付けて「実用新案」を申請(昭和24年5月)した。昭和27年5月14日公示ーーー申請から期間を要しているのは、特許庁の質疑書による訂正を要求されたためとされている。

「平和鳥」その意味は、広島で産(うぶ)声をあげたということ、戦争なんてやるんじゃない、平和であるようにという願いのこめていた。こんな歴史のなかで生まれていく水飲み鳥のオモチャは、世紀を越えて愛されているのではないでしょうか。


↑神山恵三(1967年)孤独なライフワーク 文藝春秋


生産休止に追い込まれたエピソード


「平和鳥」が売れ始めて東京で生産を開始した。だが、そこでまっていたものは・・・。返品と苦情の嵐。

◆自然の原理を使ったオモチャなので、春夏秋冬動くとは限らない!

当時、平田化学のガラス管の真空技術にもよるところが大きいが、ほとんどの場合は、寒冷地ならストーブの近くなどに置くと動く場合がほとんど。 しかも、原理を説明できなていない(アインシュタインも解明できず)オモチャなので、売れれば売れるほど問い合わせからクレームになっていったと予想する。 もちろん、当時の家の断熱性能や暖房の普及にも大きく左右されたていたのだろう、そんな事由で、生産休止となった。

ふと、十数年前を思い出す。サイエンストイスターキッズで販売をしていた頃。問い合わせで一番多かったのが、気温が下がり始める秋から冬にかかて動かなくなるというもの。 平和鳥の動作は原理的に、「冷やして動く」というものなので以下のようなクレームが相次いだ。


・寒暖差の大きい室内で元気よく動いていたのに動かなくなった
・冬の時期に購入して、説明書通りにコップを用意して水をあげたが、一度も動かない。
・日中は動くけど、夜になると止まってしまう。(暖房が入っている時間は動くが、止めると動かなくなる)
などである。つまり不良品ではなく「現象」なのである。


そんな訳でサイエンストイスターキッズでは、説明書作り一緒に送ったり、サイトに説明ページをアップしたり等対応したのだった。


当時(2001年頃)こんなチラシを作りました
平和鳥説明書 ダウンロード
クリックするとダウンロード出来ます(PDF)

新規巻き返しの精神

平田化学は平和鳥の生産休止から、もう一度広島に戻り再起を誓ってふたたび東京へ。 工場、事務所、電話も人手にわたり、製造に必要なモーターも売り飛ばされても、どうしてもやり抜く信念で新規に借金をしてでも再開し精度を高めていった。 そして再び「平和鳥ブーム」到来!生産も追いつかないくらい平和鳥はお茶の間のアイドル(?)となる。生産が間に合わなくなった理由が、 真空の精度の向上と販路の9割が海外への輸出になったことによる。(東京オリンピックも終わり昭和40年頃~)


科学ではなく、平田化学と名付けたわけ!

平田氏曰く、「字が簡単だからですよ。」というように科学者の目線でないことがわかる。もしこの平和鳥の原理がアインシュタインが驚いたように、科学者の発明だったら、 オモチャにはならなかったと思う。そのような発想は玩具を作る発想である。チョロQなどの車の特徴であるバネの力を使った車の原理などは、自動で数十メートル走ってしまえばいいので、 オモチャの世界である。 科学者が見向きもしなかった現象が、オモチャに取り入れる事で不思議なものとなる。オモチャ屋の発想は原点を突く。


平和鳥は「反復運動化学玩具」である

平田氏は、商品の説明に「化学玩具」と書いている。字が簡単という一般人(科学者に対して)の感覚の持ち主だったように思う。 平和鳥の説明書の一文のなかに、文系らしさがにじみでている。

Peace Bird 平和鳥(反復運動化学玩具) からはじまり決して名文とは言えませんが、想いが綴られていて楽しい気持ちになります。

あなたが心から平和を愛するならば、この平和鳥に、冷たい水をたやすことなくあたえていれば、恐らく、地球の熱のあるかぎり変わる事なく、平和と共に忠実に喜んでその水を飲んでいます。

是は単なる子供だましの玩具とちがい化学的要素に依(よ)って作られた正確な機械的玩具であり、 その調整と正しい取扱いに注意を怠らなければ、生涯あなたの忠実な友となり、家庭を或いは事務室を常に明るくする立派な置物となり、これからのお子様の面白い物理化学の教材になります。

と書かれて、

平和鳥の組み立て方に書かれている説明文では、まるで生き物のようなスタンスで茶目っ気たっぷりに書かれている。
-------省略-----

(5)コップの水は鳥が飲み飽きた頃を見計らって冷たい水を入れ換えて下さい。
(6)そしてこの平和鳥は冷たい水が好きなくせに非常に寒がりですから、冬は成可く(なるべく)暖かいところへ置いて可愛がってやってください。
--以下省略-----


平和鳥とは、一般の人に玩具をもちいて原理を推察しあって楽しむ「大衆的な科学心」を普及させたのだと思う。



これらの内容は、神山恵三氏の「孤独なライフワーク」を参考にした。

 


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